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 KinemaM(キネマミュージアム) 安藤桃子監督 インタビュー

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 KinemaM(キネマミュージアム) 安藤桃子監督 インタビュー

キネマミュージアム 多目的ミュージアム ミニシアター

KinemaM 公式ウェブサイト
株式会社 桃山商店 公式ウェブサイト

ご計画された経緯を教えてください。

キネマミュージアムが、常設の劇場として生まれるまでには、たくさんのドラマがありました。
遡ると2014年に、高知で映画『0.5ミリ』を撮りました。それまで高知に訪れたことはなかったんですが、第一印象は太陽がキラキラ輝き、自然がいっぱい、人々がめちゃくちゃあたたかい!土佐の地が、一瞬で大好きになりました。 

インタビューにお答えいただく安藤桃子監督
インタビューにお答えいただく安藤桃子監督

そのころから各地でミニシアターや映画館がどんどん無くなっていく状況に対して、映画を造る者として「映画文化」「映画界」の行く先を考えていきたいと強く思っていました。何より映画は、皆さんにお届けする映画館という場所が無ければ成立しない。 父が下関の方で映画館を運営していたこともあり、その背中を見て、自分も映画館を開くというビジョンは少なからずあったのかも。でもはっきりと意識したことはなかったです。

『0.5ミリ』を高知で先行公開するにあたり、劇場を探していたのですが、ここ(キネマキュージアム)の向かい側の廃ビルに、元東映の映画館が残っていて、そこを期間限定で復活させて公開したい!というアイデアが浮かびました。ロマンがありますよね。それで、その元東映のビルの屋上に立って高知の街を眺めた時に、高知ではたぎるって言うんですけど、魂が突き動かされるような熱い気持ちになって、「ここから革命を起こすぞ!」って、本気でこの土佐という地から世界が変わっていくような映像が頭の中を駆け巡ったんです。そういうことが可能だと、思ったんです。もしかしたら隣に坂本龍馬が立ってたかも(笑)

その瞬間、人生のビジョンが変わった。映画の向こう側に繋がった瞬間だったんです。もし、自分の人生から映画が無くなっても、人として何が残るか、逆を返せば「映画がこの世に何を届けられるか」ということです。映画の向こう、その先の世界です。その中で、地域に根付いた映画館という場所を高知に造るっていうこと、初めて自分が「場作り」をしたいという、人々が集う文化発信の場のビジョンが、バーンと浮かんできたんです。

結局、東映のビルは耐震や消防の問題でそのままの使用は不可能となり、(後に、この時の法律の問題などはキネマミュージアム建設に大きな助けとなりました)そこから一転、高知の城西公園の野外ステージを活用し、和建設さん、関西仮設さんの協力を得て、元東映の椅子とスクリーンを移植した230席の特設劇場を造り、地元のマルシェとコラボしたりして、2ヵ月間のロングラン上映をさせていただきました。
その時学んだのは、何も無い場所にフラグを立てる、ひとつの箱を造ることで、その土地、街や人や色々なものに影響が生まれ、それが派生し、流れが変わるということ。道がつくんです。心が文化に触れると、みんなの中にも明るさが灯って、場があることで新しいコミュニティーが生まれる。人の流れが変化するのを、実際に体験できました。そういう暖かい場所が街の中心に誕生したら、高知のみんなが元気になりますよね。その波は、高知から全国、映画を通じて世界中に伝わっていくんじゃないかと。
それで常設の映画館、ミニシアターを造りたいという思いが確信になりました。

その後、少し経ってから、和建設の中澤社長から連絡があり、ここ(キネマキュージアム)が元々あったビルをマンションに建て直すんだけど、工事が着工するまでの2年間ぐらい空白の時間ができるから、建物を利用して何かできないか?「街の中でなにか賑わいを出せないかね」と。中澤社長は高知愛の強い方ですから、街のど真ん中に空きビル状態の建物があるというのも街にとってどうなんだろうとのことでした。 私のほうも、じゃあ、ぜひ映画館やりましょう!と(笑)中澤社長の「よっし!」で、すぐにプロジェクトが立ち上がり、高知のチームが動き出しました。そこからは猛スピ ードで工事が進み、和建設さんとあれこれ話し合いながら、東映の椅子を移植したり、空きビルを活用した半常設の、簡易的なものとは思えないくらい素晴らしいキネマMというミニシアターが生まれました。中澤社長との電話から、たった2ヶ月半で!ミラクルです。週末にはマルシェや生バンドの演奏、俳優、監督を招いてトークをしたり、道ゆく人が踊り出すような空間が生まれ、みんな本当に元気になって人通りも増えて、一年半という短期間に、中四国はもちろん、海外からもお客様が来てくれる名物劇場になりました。
閉館時に、キネマMが無くなるのは寂しいと惜しむ街の声がたくさんあがり、それなら新しくできた建物の1階に常設館として復活させようじゃないかと、中澤社長と未来ビジョンが合致。キネマM改め、キネマミュージアムとしてリニューアルオープンへのスタートです。

コロナ禍も挟んだ経緯は、本当にドラマチックだったので、10年分の気持ちも含めてキュッとお伝えしていますけれど、わらしべ長者のように、地元の皆さんと一つひとつ、徐々に、仮設から半常設、そして完全常設になった、という感じです。 

安藤桃子監督が「高知の父」と呼ぶ、和建設株式会社 中澤社長と。
安藤桃子監督が「高知の父」と呼ぶ、和建設株式会社 中澤社長と。

キネマミュージアムのプロジェクトには各業界の最高のプロフェッショナル達が関わってくれて完成まで漕ぎ着けました。開館した今、結果論で言うと、普通手を出さないようなことでも、その時の世の中の空気感や数字、社会状況にのまれず、皆が夢に向かって一つに束なり、利他の精神で熱い想いでスタートしたからこそ、ゴールできたことだと思います。

KinemaMがリニューアルして開館しましたが、どのような使い方になっていくのでしょうか?

ミニシアターですが、ミュージアムというコンセプトに切り替えて、、発想ひとつで、如何様にでも展開でき活用できる多目的な空間になっています。

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D.S.P

オープンまで予定よりも時間がかかったそうですが、コロナの影響もありましたか?

そうですね、ここの工事がなかなか進まなかった理由は色々あるんですけど、コロナ禍ということも大きな影響がありました。映画館って言うと、みんなの中に「映画館ってこうだ」というイメージがあると思うんですが、コロナ禍で様々な固定観念が解体されましたよね。映画館も座席を一つずつ空けて座ったり、劇場運営そのものに関わる課題も明確に浮き上がりました。それで、新時代に合わせた形とはなんだろうと考え始めたんです。一旦プロジェクトも止まり、この先どうしたら良いのか分からなくなったりもしましたが、結果的にはそのお陰で新しい形が生まれました。

舞台とスクリーンがあって、スクリーンは壁一面のサイズで使えるようにしたり、劇場椅子も取り外しができたり、照明もスポットを色々使えるようにしてみたりとか。客席は雛壇になっていますが、これも引き出し式で全部収納でき、フラットな空間にすることが可能です。映写は、デジタルのDCPはもちろん、35mmフィルムの映写機が入っていて、アナログも上映することができるハイブリッド。ネット環境も良いので、オンラインで劇場内から世界中と繋がれます。音響も真空管アンプも所有しているので、年に何回かはアナログの貴重な音響体験のイベントなども考えています。

映画は想像したことを具現化するメディアです。SFもファンタジーもあれば、過去にも未来にもタイムスリップできますし、そこにスポットライトを当てれば、消しゴムのカスも主人公にできる。想像と創造の世界。イマジネーションは無限大!お客様にわくわくをお届けできるこれからが楽しみです。

D.S.Pは設計と音響工事で携わらせていただきましたが、業者探しはどのように行われましたか?

キネマミュージアムはマンションと一体型という、すごく珍しい劇場なんです。生活と映画館が一体化するのは、もしかしたら、業界で初めてかも⁉なので、最初にぶつかったのは「マンションの下に映画館が入る」ということで防音の課題でした。生活と映画の一体化は防音技術があってこそ叶いますが、そもそもマンションに映画館を入れるなんて発想は誰もしませんから、前例がなかったんです。 上手くいけばパイオニアですが、すごい挑戦をしちゃった。和建設の社長、現場監督、設計士はじめチームの皆さんと相談しながら、この難しい防音工事を引き受けてくれる専門の会社を探し始めました。調べていくうちにみんな音のことにも詳しくなっていきましたね。
まず、映画ってSFも戦争も恐竜もホラーも、とにかく予測がつかない色々な周波数の音を奏でるじゃないですか。その音の数や、無限大なんですよね。そんなブラックボックスの上を住居空間にするのは未知、、、無茶すぎる(笑)ある意味、世界初の試みがスタートしてしまったわけです。色々な会社を調べても、どこが請け負ってくれるかなんて見当がつかず、本当にお手上げになった時、こういうタイミングでスッと天から手が差し伸べられるんですよね。テクニカルディレクターで入って下さっているLuftzugの遠藤豊さんより、「最近、防音室や防音対策、音響対策を専門にしているD.S.Pコーポレーションという会社に出会って、多分そこの杜社長なら、関わっているみんなの情熱を伝えたらきっと真摯に向き合ってくれる方だと思うから相談してみよう!」と。

そこからですよ!それまで止まっていた展開が一気に動き出しました。できないが、できる!の連続に。マイナスだった部分や、迷っていたところに関して、D.S.Pさんは 「まずはやってみよう」って。「とりあえず、やってみようや」「走りながら考えよう」という土佐の気質にもピッタリでした(笑)情熱で挑んでくださって、すごく安心できました。

 

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D.S.P

経験と技術があるからこそ、自信と「やってみよう」に繋がるということですか?

まさに。キネマミュージアムの建設には、信頼する素晴らしいプロの面々が関わってくれています。
D.S.Pさんが加わって、最高なクリエイティブチームの集結となりました。
入ってすぐのラウンジは、地元の塚地建築さんにお願いしました。土佐の檜や杉、無垢の建材をふんだんに使用する、暖かみのある土佐の建築を得意とする棟梁の塚地さんとも何度も打ち合わせを重ねて、県外のお客様にも高知の自然を感じていただける、何代先にも残るものに仕上げていただきました。
そして、劇場の顔として皆さまの中にイメージとして定着してくれている看板は、株式会社ダイセンさんに製作いただきました。以前のキネマMの時にこの看板を作っていただいたのですが、同じ場所にキネマが戻ってきたよ!ということを伝えたかったので、そっくりそのまま使用しています。なので、今回は看板に合わせて入口を作りました。この看板を見て「あー蘇った」みたいなワクワクを感じてもらえると思うし、新しく電球一列を追加して、頭と足元を照らし「ようこそ」という気持ちを込めました。
テクニカルディレクターには舞台やコンサート、ディレクターとして世界的に活躍する遠藤豊さん。
照明はモデュレックスさん。映画館としてだけではなく、パフォーマンスや舞台使用もできるような配置と、全てプログラミングしてパッドで操作できる先端技術を導入しています。
友人でもある遠藤さんは、行き詰まった時には発想力でもたくさん助けてくれました。
スクリーンや音響は、全国で映画館を専門的に扱う映像機器システム社さん。映像機器システム社さんは、父が下関で劇場をやっていた時からの繋がりなので、バトンが受け継がれていく感じが感無量でしたね。そして、映画館に欠かせないのが座席!今回の難題であり、唯一無二の座席を制作してくれたのが、愛知県にあるホットシネシートさんでした。なるべく座席数を入れたいし、コンパクトかつゆったりと座り心地の良い、前代未聞の取り外し可能な劇場椅子というのを可能にしてくださいました。打ち合わせから設置まで、保谷社長も何度もキネマに足を運んでくださいました。
躯体の建設工事から、全工程を監修し、不可能を可能にしてくれた高知の建設会社、和建設さんは、今後映画館だけでなく更に展開ができるようにと、キネマと同じくこのマンションの一階に「カナウ」というキッチンも備えた多目的スペースをオープンしました。

来る人を優しく照らす、どこか懐かしさを感じる看板
座り心地に拘った取り外しができる劇場椅子

リニューアルするにあたって、不安な点はありましたか?

不安というより、一般的には不可能って言われることを、うっかり皆で始めちゃったので、やるしかなかった(笑)でも、目的があったんです。
ミニシアター建設で、できないことがいっぱいあって、新しい劇場がなかなか生まれない。そのできない課題を、この場所ができるに変えられたら、全国どこでもどんな条件下でも、映画館が造れるようになるんじゃないか。そして、新しい時代に合ったミニシアター、空間作りを、キネマミュージアムが可能にして、皆さんにシェアしたいという想いがありました。

 他の地域などでもミニシアターを造りたいと思われている方や、今現在運営されている方、全国の色々な方たちとコミュニケーションをとってきて、どんなことが課題でハードルになっているのかっていうのをたくさん聞いてきたからこそ、キネマミュージアムが挑戦してみたかった。それは映画界の挑戦でもあるし、地域の挑戦でもあるわけです。

だからキネマの建設で発生する一つひとつの課題は、そこだけの問題ではなくて、業界全ての人たちにとっての挑戦なんだと意識が変わりました。これを超えたときには、全体が変わる!と。できなかったことが次はできるになって、映画界の未来が大きく広がっていける。高知って雛形作りの県じゃないかって思ってるんです。高知にいると、なんでもできる!って思えて。雛形があれば、その後の可能性は無限に広がっていく。 屋上に立って街を見渡した時、ここから世界が変わっていくんじゃないかって魂が突き動かされた瞬間っていうのは、きっとそういうことだったんだと思うんです。

キネマキュージアムは時間もお金もマンパワーもかかってきたけれど、未来へ向けてなににも代えがたい可能性が生まれた。本当に幸せです。

映画監督 安藤桃子様

特にこだわった部分がありましたら教えてください。

命に優しいということですね。
コロナ禍の状況によって、世界中の一人ひとりが「生命」に意識を向けた数年間だった。そして文化や芸術、映画の核も本来は「生命」(いのち)、この一つに尽きると思うんです。世の中を見ても、より生命にとって優しい方向に向かっているし、新しいものづくりもそういう方に進化しています。

私は「食」の仕事にも関わっていて、高知のオーガニックフェスタの実行委員長をさせていただいています。高知に移住して大自然や土に触れたら、ものすごいほっとしたんです。水にも、火にも、目に見えない風にも生命があって、生命力に溢れている。「地球お母さーん!ありがとうー!」って感じです(笑)それで、映画館に来た人皆が、地球の奏でる優しさ、大地の安心感に触れられたら最高だなと。お母さんの胎内にいる時の包まれた感覚で映画が観れるような空間を作れないかなって思ったんです。

まだ日本では認知が少ないですけど、ヨーロッパ等ではスタンダードな「ホスピタルアート」というものがあります。医療の中にアートを取り込むんですが、病院内に絵画を飾るという事じゃなくて、医療従事者も一緒になって、院内や建物などにアートの取り込み、患者さんも医療従事者にも癒しを届ける取り組みです。海外では病院への入院日数が短くなるだとか、手術にかかる時間が短縮されるとか、エビデンスも出ていて大いに活用されています。

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D.S.P

「心」「身」がセットになって当たり前ということですね。

はい。日本でもだんだん浸透し始めています。そこで、ホスピタルにアートが合わさることで癒しが届けられるんだったら、文化施設がメディカルに意識を寄せていって、生命に優しい空間を作っていくっていうのは、これからの基本になっていくんじゃないかなって思ったんです。今、どの分野も社会事業をはじめたり、「環境に優しい」とかもそういうことです。
キネマキュージアムでは、床下に炭を敷き詰めたり、色々な機械を使う施設内は電磁波過敏症の方にも安心していただけるようヨーロッパ基準にしたり、細やかな配慮をたくさんしています。杜社長や映像機器システム社さんと相談して、客席のスピーカーには、海外では先端医療として使われている自律神経が整っていく生命の周波数、自然界と同じ周波数を響かせる仕組みが導入されています。 高知に来て自然の中に行くと、ほっとする。そのほっとしたところでアイデアは生まれます。

ストレスをいっぱい抱えている日々の中で、映画館に来て、まずは本来のリラックスした状態になって、そこから心への栄養を受け取ってくれたら。お母さんの胎内にいるような癒しの空間をぜひ体験していただきたいです。

土佐の建材を使用したラウンジ
タイル調のオリジナル吸音壁

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D.S.P

なぜそこまでしたいと思われたんでしょうか?

映画は観る人の心の中にあるものだと思っているから。
同じ映画を観ても一人ひとりの反応や感動って違いますよね。アートで言ったら、絵画を見た時、その絵にアートがあるのではなくて、アートは100%見る人の心の中にあるっていうことです。作品を観て「美しい」と感じるその感性自体がアート。だから、キネマに来られた方の感性や感受性が一番柔らかい、ベストな状態で作品に触れていただけたら、本当の感動がそこに生まれるはず。 特に若者とか子どもたちがここに来て、その感性に灯を届けられたら。

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D.S.P

椅子も座り心地が良くて、リラックスしすぎちゃいそうです。

作り手が言ってもいいのかわからないけれど、あえて言っちゃいますが(笑)映画館に眠りに来る人も私はいいと思っています。自分の作品を見に来て寝ちゃっている方を見たら、なんか凄くほっとしたことがあって(笑)そういう時間を届けられて良かったなって思ったこともあるし、映画ってもっと深い潜在意識にまで届くものだと思っていて、どこまでも映画を信じているんです。必ずなにかが届いているんです。どうしたって入ってくるんです。全身全霊、魂を響かせるメディアだって信じているから。だから関係ない!(笑)寝ちゃっても、大丈夫なんです。
私自身も体験があります。幼い頃に映画館で見た、ウトウトして何も覚えていないような難しい映画でも、うっすら目を開けた時に見た風景の記憶、異国の情景や、その時の空気感もいまだに蘇るんですよね。列車で旅をしている時、窓の外の異国の空気感とか、列車で運ばれているその時の揺られている体験とかって忘れないじゃないですか。観光名所よりも、むしろそういった些細なことの方が覚えていたりしませんか?なぜか涙が出ちゃう、みたいな。映画って、そういう記憶の体験なんです。

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D.S.P

ところで、映写室が外から見えるようになっていて、びっくりしました。

はい、映写室って遮光しないといけないので、ガラス張りにする発想がそもそもないんですが、キネマはラウンジから映写室の中が見えるようにガラス張りにしました。 もちろん、上映中は遮光カーテンを閉じますが、映画上映の核となる場所を、可視化したかったんです。

キネマミュージアム ガラス張りの映写室


映画が、観ている人の想像の世界、宇宙へ誘うメディアならば、映写室は宇宙船の操縦室。そこに明かりが灯り、旅が始まるんです。映写技師というクルーが座って、その世界に飛び立っていく
「体験」です。
映写室の床にはスペースシャトルに塗る、周辺温度に適応する性質がある塗料を使っています。スマホで見たり、色々な観方がありますが、映画館は不特定多数の人々と共鳴し合い、感動を分かち合う体験の場です。見える化することで、フィルム上映や映画の仕組みにも興味を持って頂けたら幸いです。子供達に向けた劇場内のツアーなんかも御依頼があればやっています。

ラウンジに使っている土佐の漆喰には微生物を練り込んでいます。これは高知の子どもたちと農業をやっている中での、土作りの発想からなのですが、微生物を壁に練り込むことで、そこで生きている微生物がどんどん良い環境を作っていってくれます。畑に行った時に「大地だ」と感じるのは、そこに無数の生命がいるからで。 親指一個の部分にも地球一つ分の微生物が一緒に暮らしているそうで、ということは、私たちの身体って宇宙なわけです。何億っていう数え切れない程の生命と一緒に生きているですよね。語ってしまうとこれだけで2時間番組くらいになっちゃうんですけど(笑)そういう、「より自然に近く」っていう空間。

映画監督という職業を通じて、専門分野のプロの方たちと関わって、その情熱を感じ、そしてこの時代だからこそ生まれた、全てのイノチに優しい、自分自身に戻ることのできる、世界に2つとないここだけの空間。 ここから出ても日常の中に感動のドラマが続いていく、宇宙船のような映画館が生まれたと思っています。

ミュージアムとしての仕上りは、音響も含めていかがでしょうか?

本当に世界唯一です。
これはきっと、高知の人が世界中に自慢できる空間、自慢していただきたい場所です。

KinemaM ミニシアター 多目的スタジオ

D.S.Pのスタッフの対応はいかがでしたか?

私は想像と創造という言葉を大切にしているんですが、まさに今回D.S.Pさんと関わって、技術以上の進化、無限の可能性を見せてくれるクリエイティブなコミュニケーションだったので、すごく楽しかったです。魂たぎる、すごく暖かいチームの皆さんで、その火がまたチーム全体にも灯っていきました。

きっとD.S.Pさんの方でも新たな挑戦がここにあったのかも。私からしたら、ついに安心して乗り越えられると思ったわけですけど、杜社長はじめD.S.Pの技術者の皆さんにとって、キネマはどんな挑戦だったのか、今度じっくり伺いたいですね。受注発注ではできない、人と人のコミュニケーションあってのクリエイション。 私たちキネマミュージアムが目指していることを本当に丁寧に、共に造っている認識で、専門を超えたところでも、私が引っかかったり悩んだ時には全体を見て「じゃあこうしよう」って力強く背中を押してくださった。防音や音響の環境作りって、もっと固い世界だと思っていたんですけど、物凄くクリエイティブだったのでワクワク、本当に楽しかったです。
日本でD.S.Pさんだけだと思います!

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D.S.P

嬉しいお言葉をいただきまして、ありがとうございます。

私たちは『すべての人々に笑顔を…』をテーマに、本物で夢ある空間設計をクライアントと共に考え、それを形にし叶える事を使命に、お客様のご希望に少しでも添えるようにという目線でやらせていただいております。
ご希望やご要望は勿論ですが、物件状況・周辺環境・防音性能、室内音響など何から何まで同じはありません。「経験や技術を基にし、常に挑戦し続けてる」と言っても過言ではないのかもしれません。

KinemaM様のリニューアルにあたっては、安藤様をはじめ関係者の皆様、そしてリニューアルを待っている街の方々の想いを強く感じました。
そのため、最終的にミュージアムが出来上がった時に、関係者の皆様や街の方々が「出来上がって良かった」と思えるような、皆が良い仕事ができる流れに持っていけるよう関わらせていただきました。
KinemaM オープニングセレモニーでは、皆様の笑顔を見ることができて、心より嬉しく感じました。

D.S.Pによる残響時間・空気音性能遮断測定検査時の様子

リニューアル後、街の方々の反応はいかがでしたか?

皆さん待っていて下さった期間が長かったので、静かにお互いに涙を流して喜ぶ、みたいな、深い感動がありました。地元と共に、という感覚。「やっと帰ってきたね」っていう。
人は出たり入ったり動くものですが、「場」という地域に根付いた文化発信のベースができたんです。映画を通じて高知に元気を、地域に根付くっていう喜びをお互いに感じているところです。

ここはきっと、全国からたくさんのお客様がいらしていただける場所になると思うんですが、高知の磁場を、嬉しい!とか楽しい!っていう幸せな感覚を、皆と分かち合っていきたいです。人々が皿鉢料理の様に、高知で言うところの返杯、お酒を酌み交わすじゃないですけど、自分も皆も互いに嬉しいっていう、そういう暖かさがここからたくさんお届けできたら。

「龍馬祈願国際映画祭り」のパンフレット

2023年に行われた「龍馬祈願国際映画祭り」のパンフレット

また、キネマキュージアム立ち上げと同時に、高知で「龍馬祈願国際映画祭り」という、映画館が主催する映画祭をスタートさせたんですけど、そこでのコンセプトはこれからの次世代、子どもたちに繋いでいきたいということです。
高知で子ども達の食糧支援などを行っているNPO地球のこどもと一緒に、地球のこどもビジョンというのを立ち上げさせてもらって、そこで映画づくりのワークショップを小学校で始めました。子供たちの中にある才能の種が花咲いていくように、ここに来て映画体験をしてくれて、そのことがまた彼らの未来のビジョンに繋がっていくような、そういう場所にしたいです。夢はまだまだ広がるばかりです。

感動は与えるものだと思っていなくて、「感動は分かち合うもの」「才能も分かち合うもの」だと思っています。ここに来ることで感性が育まれ、その才能も「分かち合う場所」になったら嬉しい。
ちなみに、分かち合う精神っていうのは、超高知気質なものですね(笑)

また何かありましたら、D.S.Pに相談したいと思いますか?

D.S.Pさんとまた一緒になにか挑戦したいなと思います。
こんなのきたかよ!みたいなこともあるかもですけど、これからさらに新しいことが技術的にも生まれていくと思いますので、未来ビジョンを共にさせていただけたら嬉しいです。

KinemaM 座席

2023年に行われたオープニングセレモニーの様子

Photo by Takashi Kurokawa
株式会社アリガトウデザインコンサルティング

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