防音スタジオといっても、その種類は様々です。
例えばレコーディングスタジオ・リハーサルスタジオ・TVやラジオ、配信といった放送スタジオ、MAや編集のできるポストプロダクションスタジオなど・・・
また、プライベートスタジオなのか、貸しスタジオとして運営していくスタジオなのかによってもプランニングは大幅に変わります。
今回の記事では、レコーディングスタジオ施工を掘り下げていきたいと思います!
レコーディングスタジオとは?
楽器や歌唱の演奏等のレコーディングと、映像作品の音源収録を目的としたスタジオに大きく分けることができる「レコーディングスタジオ」。
音の編集・調整(ミキシング)等を行うための機材が用意されていることはもちろんですが、楽器演奏や歌唱・録音がしやすい環境であることが重要です。
一般的にレコーディングスタジオは、メインブースとコントロールルームの2部屋で構成されます。
メインブースは音源の収録をするスタジオエリアで、その音や音楽をモニタースピーカー等から録音・編集するのがコントロールルームです。
録音する楽器編成や、録音スタイルに合わせた計画が必要になります。
レコーディングスタジオ|重要ポイント!
レコーディングスタジオを造る上で重要なのは、「近隣や外部へ、音や振動を伝えないこと」「レコーディングに適した室内環境であること」「最適な室内音響設計が施されていること」です。
ひとつずつ、詳しく見ていきましょう。
①近隣や外部へ、音や振動を伝えないこと
通常音には、鳴らした音が空気を振動させて伝わる空気伝搬音と、振動が建材を通して伝わる固体伝搬音の2つがあります。伝わり方が異なるため、防ぎ方も当然違ってきます。
防音を検討するときには、レコーディングスタジオとして使用する用途やコンセプトから、防ぎたい音の種類をしっかり見極めることが重要になります。
例えばピアノの場合は約70~110dB、生ドラムの場合は約80~120dB、サックスや金管楽器の場合は約110~120dB、声楽・ボーカルの場合は約90~110 dB、エレキギターをアンプやスピーカーに繋いで演奏する場合は約120dB程度の音の大きさがでます。これは直接耳に届く、空気を振動させて伝わる空気伝搬音。
加えて楽器から発せられる重低音や、ペダル操作時に伝わる振動、アンプやスピーカーなどの床へ直接伝わる振動は、固体伝搬音になります。
音は床を伝わり、また壁や天井、床に入射した音が物体内に伝わり外部へ放射されるため、レコーディングスタジオでは、用途や目的から「音のパワー」「低音から高音までの幅広い音域」「床から直接伝わっていく振動」に対策が必要になります。
②レコーディングに適した室内環境であること
より良い音の録音には、室内の静けさが重要となります。
室内で生じる騒音源は、外部から侵入する騒音に加えて、内部設備騒音です。内部設備騒音とは、空調機や換気設備等の室内に設置されている設備から発せられる音を示します。
外部騒音に対する遮音対策がしっかりととられているスタジオに関しては、内部設備等の室内で発生する騒音によってNC値が決定されることがほとんどです。
このNC値とは、「騒音の評価」のこと。L.L.Beranek氏が、耳に感ずる音の大きさと会話に対する騒音の妨害程度を研究して騒音の許容値を周波数分析し、数値化したものです。
NC値は、その値が小さいほど静かであることを示します。
レコーディングスタジオにおける室内騒音は、施工場所の近隣・外部の事前調査を踏まえ、設計する必要があります。
スタジオに要求される室の静けさはNC-15~25ですが、近年録音機材の低ノイズ化も進み、空調機器の消音技術も向上していることなどから、M.A.F.(Minimum Audiable Sound Field:最小可聴閾)に近い静けさが求められる傾向があります。
③最適な室内音響設計が施されていること
レコーディングスタジオでは、遮音性能はもちろんですが、より良い音をレコーディングできる空間であることに加えて、アーティストやナレーター、ディレクター、エンジニアといったスタジオ使用者が快適に演奏・作業することができる室内音響設計が施されていなくてはなりません。
フラッターエコーや定在波、ブーミングといった音響障害を発生させない設計はもちろんですが、スタジオ使用用途や目的に合わせて、響きの長さや質をある程度設計することが求められます。
(ここで言うある程度とは、レコーディングスタジオが完成し使用していく中で、配置する物やセッティングする機材・セッティングの仕方によって、使用者の好みの音場調整が可能になるからです。)
D.S.Pが施工するレコーディングスタジオ
遮音をしっかりと実現したレコーディングスタジオでは、壁・天井・床に対して遮音・防振構造(浮遮音層)が基本的に必要です。
浮いている空間(浮遮音層)を造ることにより、楽器から鳴る音や歌声はもちろん、キックペダルを踏むことで床に伝わる振動やアンプ・スピーカーから床に伝わる振動などの固体伝搬音も減衰させる防振構造となります。
このように、「お部屋(箱)の中にもう一つお部屋(箱)を浮き構造で造ること」を「ボックスインボックス構法」といいます。
室内側の遮音部分と既存の遮音部分により、総合的な遮音性能がとれるようにすることで、防音性能の高いお部屋となるのです。
次に換気扇などの開口部。
防音室は構造上、隙間がなく気密性がとても高いお部屋のため、通常の部屋よりも空気の入れ替えがしづらいものです。
建築基準法で、室内の24時間換気が義務付けられていることはもちろんですが、気密性の高い防音室内の湿気や空気の入れ替え・健康面という観点からも換気口を無くすことはできません。
レコーディングスタジオでの換気口は、防音効果の高いものを使用し、そこからの音漏れを防ぐ必要があります。
加えて、先にも述べましたがレコーディングスタジオにおいて重要なのは「室内の静けさ」。空調設備騒音等の室内で発生する音によって、「室内の静けさ」は左右されることが多いです。
空調設備には大きく分けて「ダクトタイプ」と「天井カセット型タイプ/壁掛けタイプ」があります。
■ダクトタイプの空調設備
ダクトタイプの空調機は、消音装置との組合せにより空調が稼働してい
も静かな環境を保つことができます。
設置する消音装置にもよりますが、NC-20~M.A.F.(Minimum Audible Field:最小可聴音場)程度になります。
■天井カセット型タイプ/壁掛けタイプの空調設備
天井設置/壁設置タイプは、空調機が稼働すると一般的なオフィスの騒音レベルと同等になります。
消音タイプの換気設備を用いることで空調が動作していない時の静けさが確保できます。空調使用時はNC-40~30程となります。
自宅にプライベートスタジオ!
近年音楽・動画配信サービスやSNSの普及、録音機材の高性能軽量化、パソコンベースのDAWを用いた録音の一般化等から、プライベートな空間でレコーディングを行う人が多くなりました。
自宅にプライベートスタジオがあれば、好きな時間に好きなだけ作業ができますね
ポイントを見ていきましょう!
どんな住宅でもプライベートスタジオは造れるのか?
住宅と一口に言っても、戸建て住宅・集合住宅とあり、構造もRC造、鉄骨造、木造と様々です。まずはレコーディングスタジオをどのような住宅に造りたいかを考え、希望の部屋に造ることが可能なのか判断しなくてはなりません。
基本的に生ドラムを設置する場合は、耐荷重や仕上りの天井高などの問題から、木造の戸建て住宅2階以上や、一般的なマンションなどの集合住宅には、施工することができません。
ただしRC造の集合住宅で、既存のスラブ厚が大きいものや、既存の天井高が高いものは、生ドラムを設置するスタジオを施工することが可能な場合もあります。
木造戸建て住宅2階以上の場合、2階の段階で掛けられる耐荷重に限りがあるため、スペックの高い防音室は荷重の問題から施工が厳しく、建物計画時に耐荷重を考慮した構造設計が必要になります。
希望するスタジオの広さは?
メインブースとして、ボックスインボックス構法で一室丸ごとリフォームをする場合、現状より一回り小さい仕上がりとなります。さらに生ドラムを設置できるお部屋に施工した場合は、元が8畳のお部屋は仕上り内寸で約5畳程度。
お部屋に入る人数やセッティングする楽器等から仕上りの広さを考慮し、使用用途・目的に合ったプランニングが必要です。
さらにレコーディングスタジオは、一般的にメインブースとコントロールルームの2部屋で構成されます。メインブースは演奏や音の収録をするスタジオエリアで、その音楽や音をモニタースピーカー等から録音・編集するのがコントロールルームです。
コントロールルームには、録音に特化した機材の用意が必要です。
設置する機材や仕様は、レコーディングスタジオの規模や使用者の用途や好みによって様々ですが、録音スタイルに合わせたお部屋の広さをプランニングしていきましょう。
プライベートスタジオが居心地のいい空間になるよう、広さや高さ、空調・照明の快適さを考慮した設計施工が求められますね。
レコーディングスタジオを運営したい!
次に、レコーディングスタジオを貸しスタジオとして運営していくことを視野にいれた場合の、施工におけるポイントを見ていきましょう!
■レコーディングスタジオを造る目的や用途を明確にする
なにができるスタジオにするのか、ターゲットを決め、スタジオに入れたい機材・楽器もある程度検討しておきましょう。なぜなら、必要な広さやスタジオレイアウトに関わってくるからです。
■スタジオとして運営していく物件を探す
希望のエリアや条件から、候補となるテナント物件を探し、その物件がレコーディングスタジオとして運営することが可能な物件であるのか調査が必要です。
テナント選定の段階でご相談いただければ、現地調査も同行させていただきます。
■レコーディングスタジオ施工業者を選定
スタジオをオープンした後に、近隣からクレームがきてしまい、閉店せざるをえなくなった…そんなことになってしまっては、元も子もありません。
防音工事施工業者は数多く存在しますが、ホームページ等で記載されている性能は同じなのに、各業者によって金額に差があります。なぜかと言うと、工法は業者ごと独自のものであり、それによって使う材料も異なるから。
予算は大切ですが、見積だけに左右されず、材料の違いや工事請負形態、管理方法、工程にも目を配った上で防音工事施工業者を選びましょう。
■工事施工業者と細かい仕様等を詰めていく
レコーディングスタジオを運営していくにあたって、遮音性能がしっかりととれているだけでは足りません。目的や用途に合わせた室内音響設計と、意匠デザイン・電気音響設計が重要です。
レコーディングスタジオ開業を計画する場合、防音工事施工業者へのご相談は早いに越したことはありません。D.S.Pへも、まだ物件が決まっていない状態でお問い合わせを頂くことが多々あります。現地調査やお見積りは無料ですので、お気軽にご相談下さい。
こだわりの詰まったレコーディングスタジオを
遮音がしっかりとされていて、室内の静けさも十分にあるスタジオでも、クオリティの高い音場であり、快適で居心地の良い空間でなくてはなりません。
音場のバランスが取れた心地の良い空間であるために大切なのは、室内音響設計と意匠デザイン・電気音響設計です。
室内音響設計の必要性
レコーディングスタジオの残響時間は、使用楽器や音楽のジャンル、使用者の好みによって異なりますが、平均的には、室内平均吸音力が20~40%程度で最適な残響時間を得ることができます。残響や反射面・吸音面を好みによって変えられるようなパネル等を設置し、スタジオ使用用途や目的に合わせて響きの調整をすることも可能です。
室内の響きで重要なのは「バランス」。
響きが強すぎると演奏の妨げになり、極端に響きが少なすぎると音楽に違和感が生じてきます。
スタジオ独自のスタイルで、用途や目的に応じた空間になるような室内音響設計が必要です。
意匠デザイン・電気音響設計の必要性
レコーディングスタジオの広さや天井高、各部屋へのアクセスの利便性、用途に応じた照明の使用等の内装設計は、使用者にとって重要な要素となります。
また、芸術性が高まるような意匠デザインや落ち着く雰囲気の意匠デザイン等、用途に合わせた内装仕上げに加えて、スピーカー等の電気音響設備を求める空間に適した設置方法でしなくてはなりません。
音場計画は、部屋形状に加えて、反射面と吸音面の配置によって大きく分けられます。
配置例をみていきましょう。
■ライブエンド・デッドエンド型(集中配置型)
スピーカー側の壁が反射性、背面の壁が吸音性のタイプ。
量感が豊かで音質はソフトになり、過剰なエコーを抑えるのに効果的。
■デッドエンド・ライブエンド型
スピーカー側の壁が吸音性、背面の壁が反射性のタイプ。
量感は少なくなるが、透明感と奥行き感のある音質になる。
■分散配置型
吸音面と反射面を交互に配置するタイプ。
位置による音質差が比較的少なく、音質はソフトな傾向。
音の抜けや透明感はやや落ちる。
併せて、スピーカーの設置方法として壁面にビルトインする場合、置き型から吊り型・背面固定型等様々あります。設置するスピーカーの特性や条件を考慮し、クオリティの高い音質を確保しましょう。
電気音響設計は、もちろん使用者の好みや目的や用途で大きく変わります。
スタイルに合った配置を選択し、バランスの良い音場となるよう、電気音響設計をしっかりとしていきましょう。
まとめ
気軽にだれでもレコーディング作業をすることができるようになった現代。
遮音がしっかりと実現されたお部屋で、心置きなく作業に打ち込めたら、さらにいい音を生み出すことに繋がるかもしれません。
個人・法人どちらも対応しておりますので、まずはご相談だけでも、お気軽にお問合せ下さい!