マンションなどの集合住宅で気になる「足音」。音の特性から見る効果的な対策とは

マンションなどの集合住宅では、異なるライフスタイルや家族構成の様々な人が、一つの建物を共有して暮らしています。集合住宅に住む多くの人に「音」を意識するタイミングがあるかと思いますが、特に子どもがいる家庭では、足音ジャンプする音が下の階に響いていないか心配になりますよね。
音の特性から、効果的な対策を見ていきましょう。

マンション総合調査結果から見る!「マンションにおけるトラブル」の傾向

マンションでの近隣トラブル

国土交通省では、5年に一度「マンション総合調査」を行っており、全国規模のマンション管理に関する総合的な調査結果を確認することができます。平成30年度の調査結果を見ると、マンションにおけるトラブル発生状況の第一位は、「居住者間の行為・マナーをめぐるもの」。その中での具体的なトラブルの第一位は、「生活音・騒音」でした。
平成25年度の具体的なトラブルの第一位は「違法駐車・違法駐輪」でしたので、5年間で音のトラブルは増加傾向ということがわかります。
その背景にあるのは、「人々の音への意識」
平成30年度の調査結果において、トラブルのあったマンションを建設年別で見ると、平成27年以降に建てられた新しいマンションが50%と一番多く、さらに階数別では、20階建て以上の高層マンションでの比率が68%となっています。
近年造られたマンションには、防音性能が優れていることを謳ったものも多く見られるようになりましたが、様々な人が同じ建物で生活をしている以上、防ぐことが難しい音があるのが現実。
『新しく建てられたマンションだから騒音の問題は少ないだろう』という考えが、お互いの音に対して不快な感覚を持つことに繋がるのかもしれません。
加えて、時代の移り変わりによる人間関係の希薄化、地域コミュニティーの減少、都心部での人口集中という社会状況が、騒音トラブルの増加を後押ししていると言えるでしょう。

防音とは

音とはなにか

そもそも「音」とは何でしょうか?
簡単に言うと、空気の振動です。例えば、太鼓を叩くと太鼓に張られた皮が振動し、音が出ているところを見たことがあるかと思います。音は、空気や固体を揺らして伝わります。その揺れ(波)の中で人間の五感で感じ取れる部分が、生活する上での「音」と呼ばれるものです。

防音の要素として、音のエネルギーを少なくするために「遮音」・「吸音」・「防振」など様々な方法が取られますが、その全てを加味して“防音”となります。
音がある空間(発生場所)から、ある空間(現在地)まで上記のような方法で軽減された分のエネルギーが「防音効果」となるわけです。
つまり“防音”とは、音のエネルギー(=波動エネルギー)を遮ることなのです。

「完全防音」は可能なのか

住宅街の模型

ネット上で「完全防音」なんていう言葉を見ることがありますが、結論として、『一般住宅において、音のエネルギーをゼロにすることは現実的に困難』と言えます。

防音の法則として「質量則」というものがあります。質量則の法則とは、材料の面密度(1㎡当たりの質量)が大きいほど、 音響透過損失(遮音性能)が大きくなるというもの。簡単に言うと、質量が大きければ大きいほど、音をはね返す力は強くなるということです。
質量則から建物内での防音について考えると、壁や床を厚くしたり建材を重たいものにすればするほど遮音性能は大きくなるということですが、それは理屈での話。実現するには防音層を何重にも造ることになるため、建物自体がその重量に耐えられなくなってしまうのです。

よって一般住宅においての「完全防音」は現実的に不可能ということになります。
人間の感覚には個人差があり、感情にも影響を受けるもの。音を人間の耳で聞こえにくくする「防音」に、「完全」はありえないという事ですね。

音には種類がある

グランドピアノを弾く女性の手

音には、空気中を伝わっていく「空気伝搬音」と、建物の床や壁、天井等を伝わって届く「固体伝搬音」の2種類があります。 伝わり方が異なるため、防ぎ方も当然違ってきます。
防音を検討するときには、自分の防ぎたい音の種類をしっかり見極めることが重要です。

空気伝搬音と固体伝搬音

■空気伝搬音
楽器や乗り物等の音源から放出された音が空気中を伝わっていく音。具体的には、話し声やピアノの音色などです。空気伝搬音は距離減衰によって、音源から離れるほどレベルが減衰するが、さらに塀などの遮蔽物によっても減衰します。
■固体伝搬音
振動源から発生した振動が床スラブなどを振動して伝わり、受音室の壁などを振動させて空気中に音として放射する音。集合住宅における騒音問題では、設備機器の騒音、給排水音、床衝撃音、扉の開閉音などの固体伝搬音が多くなっています。
固体伝搬音の伝搬経路上の減衰は空気伝搬音より小さく、減衰傾向は伝搬経路の地盤や固体の形状、また音としての放射する面と下地構造によって異なります。

集合住宅での「足音」や「ジャンプする音」は、固体伝搬音に分類される「床衝撃音」。この「床衝撃音」とはどういったものなのでしょうか?

床衝撃音とは

室内で食器を落とすイメージ

建物の室内で物を落としたり、人が動くことで床が直接振動し、下階に伝わる音のことを「床衝撃音」と言います。
床衝撃音は建物の構造や床仕上げ材の種類などによって伝わり方が異なります。また、衝撃特性の違いから「重量床衝撃音」「軽量床衝撃音」に分けることができ、その性能を【L値】で表します。数値が小さいほど性能は高く、衝撃音が伝わりにくい事を示します。

重量床衝撃音(LH)
ジャンプしたり、椅子を動かしたときなどに、「ドスン」「ガタン」と大きく下の階に伝わる鈍くて低い音。
軽量床衝撃音(LL)
スプーンなどを床に落として「コツン」、スリッパで歩いて「パタパタ」するように、比較的軽めで高音域の音。

床衝撃音|効果的な対策は?

カーペットで床衝撃音対策

ジャンプ時に伴う振動は重量床衝撃音、比較的軽めの足音は軽量床衝撃音ということですね。それぞれの具体的な対策を見ていきましょう。

重量床衝撃音(LH)
根本的な解決として床材では難しいもの。床の材質が固くて重いほど遮音性能は高くなり、マンションでは床のコンクリートスラブの厚みに比例します。(梁で囲まれたスラブ面積の広さも関係します)
軽量床衝撃音(LL)
床の構造や表面仕上げによって変わります。構造は直床よりも二重床、仕上げ材は一般的なフローリングや石貼りよりもカーペットや畳のように吸音性が高いものほど遮音性能は高くなります。重量床衝撃音とは異なり、スラブ面積の影響は少ないです。

軽量床衝撃音への対策として、厚めのカーペットや防振マット、防音タイルカーペットといった吸音性の高いものが販売されています。様々な商品から選ぶことができ、手軽に取り入れることができますね。リフォームで床材を変える場合は、衝撃をやわらげる効果のある床材に替えることで伝わる音は軽減されます。床材の遮音性能が「LL-40」か「LL-45」などと示されているものを選ぶようにしましょう。

問題は重量床衝撃音
重量床衝撃音を根本的に解決するには、床材では難しく、床のコンクリートスラブを厚くし、振動しにくい床にするしかありません。コンクリートが厚ければ厚いほど床は重くなり、下の階に響く音は軽減されます。しかし、すでに出来上がっている建物の躯体に手を加えるのは現実的でないのに加えて、コンクリートスラブを厚くすればするほど建物の重量が増加し、構造に負荷を与え耐震性能を損なうことになります。
また、近年造られたマンションでスラブ厚が250~350㎜程度ある建物の場合、「スラブ厚がしっかりとあるから大丈夫!」というわけではない可能性も。「ボイドスラブ工法」でスラブが造られているケースがあるため、注意してくださいね。

一室丸ごと防音室に!どんなもの?

D.S.Pコーポレーション施工の防音室

重量床衝撃音への対策は難しいということですね。技術は日々進歩していますので、重量床衝撃音を低減する材料を使用して施工される建物も今後増えていくでしょう。
分譲マンションにおいて、クレームに繋がっているが様々な理由で引っ越しはできないという場合、まずは防振マットなどを使用してみて効果がなかったら『一室丸ごと防音工事を施して防音室を造る』という対策があります。

防音室の造り方

防音室では、壁・天井・床に対して遮音・防振構造(浮遮音層)が基本的に必要となります。浮いている空間(浮遮音層)を造ることにより、空気伝搬音はもちろん、固体伝搬音(振動)も減衰させる防振構造となります。
防音室内側の遮音部分と既存の遮音部分により、総合的な遮音性能を出す構造とします。

要するに、「お部屋(箱)の中にもう一つお部屋(箱)」を浮き構造で造ります。これを「ボックスインボックス構法」といいます。
比較的スケールの大きいリフォーム工事になるため、お悩みや予算等と照らし合せて検討しましょう。

まとめ

この記事を執筆している私も集合住宅に住んでいます。室内を走り回る子どもに注意しても、数時間後にはなぜか踊っていたり。怒っている私の声が騒音になりかねません…。賃貸で大規模なリフォームは現実的ではないため、室内には厚めのカーペットを敷き、休日の日中は公園に連れ出し体力を消耗させるようにしています。加えて、下の階や隣戸の方となるべくコミュニケーションをとることも心がけています。
「音」の感じ方は人それぞれ主観的なものだからこそ、音を出す側が出来る限りの対策をして、穏やかに過ごしていきたいですね。

D.S.Pコーポレーションは「防音」に特化した会社です。お客様の本当の目的を丁寧にお聞きした上での防音対策・騒音対策・音響設計をご提案したいと考えております。お気軽にご相談くださいね。

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